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鉄道模型実験室  動力車の測定を始める

■ はじめに

 いよいよ動力車の測定を始めることにした。 まず、測定が容易と思われ、色々なデータの揃っている「動力車の調査」で実施した電気機関車を対象に測定を実施した。 しかし、いろいろな疑問点や不具合点が発生し、その原因も未解決な部分があり、少し混乱気味であるが、取りあえずその内容を記録しておくことにする。

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■ 電気機関車 EF510-1号機を測定する

 測定対象の動力車として KATO 製の電気機関車 EF510-1号機を選定した。 車体の上部(ボディ)を取り外し、モータの回転センサとモータ端子部に測定端子を差し込んで、測定車と接続しました。 右の写真。 また、モータ端子部には 0.1μFのコンデンサも取り付けました。

 測定台をセットして、初めに速度特性の測定を実施しました。 平坦路単機走行での速度を測定するものですが、様子が変でした。 車速と電圧、および電流と電圧のグラフを下に示します。 5ボルトの辺りで速度特性に段差が出来、電流値が飛び上がっています。 走行音もこの前後で変化します。

  

 駆動部分に問題有りと判断し、車両を分解してみました。 モータのフライホイールに貼りつけてあったテープの、ちょっとした凸部の表面がピカピカに光っていました。 ここがフレームと接触していたと想定した。 下左の写真。 このフライホイールの外周には、造花クラフト用のテープを巻き付け、マジックとペイントマーカーペンで白黒に塗り分けていますが、テープの巻き方が不良だったようです。 これはいい加減な工作が原因と判断した。

 フレーム側には、一部に黒くなっているところがあるので、ここと接触していたようです。 テープを巻き付けた時のアンバランスにより、モータのシャフトが振れてフレームに接触したと考えられ、回転による軸振れの共振点部分(およそ、5ボルト近辺)で振れが大きくなり、フライホイールとフレームが接触して回転抵抗が増加したようです。

 共振点以外は振れが小さくなり、通常の回転抵抗で回っていたものと考えれば、車速と電圧、および電流と電圧のグラフのパターンが理解できます。 このため、テープを剥がし(上右の写真)、フライホイールに直接ペンキで白黒の模様を塗ることにしました。 ペンキはアクリル絵の具を使い、面相筆で塗りました。

 再び組付けた後、実験した結果は下記の様に正常なパターンを示しています。

 次に電圧降下量を計算し、グラフ化してみました。 およそ0.5 ボルト程度であるが、飛び出しているデータもある。

 モータ回転数についても、車速を横軸にとってグラフ化したものを下左に示す。 スリップ率をゼロと仮定した場合についても赤線で表示しておりますが、低速領域でもかなり滑っているようであり、速度が増すにつれてスリップ量も増加しているようです。 この状態をスリップ率として計算したものを下右に示すが、“率”として計算すると、また違ったイメージになってしまいます。 

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 このモータ回転数をモータ端子電圧を横軸にとってグラフ化して左のグラフに示す。 EF510-1号機は、「動力車の調査 EF510-1号機」にて、モータ単品での測定結果が有りますので、その時のデータを重ねて見ました。 モータ単品状態よりも勾配として 17%もアップしており、やや疑問の残るデータとなっています。 電圧値の測定値の信頼性によるものだろうかと疑っていますが、大きな違いはなさそうなので、ひとまず安心することが出来ました。

 次に牽引力特性を測定しました。 そのデータを下に示します。 車両重量は、88.2グラムで、負荷としての測定車両は、58.2グラムで走行抵抗は0.8グラムとして計算しています。

 また、「 4.0M 」としてプロットした点はスリップがゼロとしてモータ回転数より計算した車速です。 そして、「 4.0volt 」のプロット点は測定された車速で、この二つの点の違いが、スリップの大きさを表しています。

 大まかにみて、牽引力が大きくなるとスリップが増え、牽引力ゼロ近辺ではスリップが小さくなる事を示していますが、大きくかけ離れている部分もあります。 駆動側と制動側のスリップ領域に入ると、速度の差が大きくなってしっかりとスリップしているのが分かります。 そして、概して言えそうな事は、モータの回転数は車速の様には変化していない様子です。 また、制動力の大きさによって、モータの回転数がどの様に変化するのかといった制動領域でのパターンも注目したいところですが、あまり明確では有りません。 これは「制動領域での動力特性」で検討した内容を裏付ける証拠にならないかと期待したのですが、まだ何とも言えないですね。

 次に、電圧降下の様子を見てみましょう。 下左のグラフに示すように不思議なパターンを示しています。 そこで、横軸を牽引力に取ってみました。 下右のグラフ。 すると、牽引力がプラス側あるいはマイナス側共に大きくなると電圧降下量は下がって来る様子がはっきりと示されています。

      これは新発見です!    力が掛ると電圧降下量は小さくなる。

 なぜ? まだ分かりません。 さらに電圧が高いと電流値は同じでも電圧降下量は大きくなることも不思議ですね? 新たな課題が出てきました。 なお実験の順番は、4、5、6ボルトの順に実施していますので、レールなどがだんだん汚れてきたのかもしれません。 今後確認してみましょう。

 今度はスリップ率を計算してみました。 下のグラフです。 6ボルト測定時の途中から大きくドリフトしていますが、原因は実験ミスです。 6ボルト設定は最後に実施しましたが、大きく傾斜した下り坂のカーブにおいて、曲り切れずに脱線してしまいました。 その後、車両を線路に戻して実験を続けたのですが、この様に回転数が2倍になってしまいました。 実験後、回転センサ部分を観察すると、センサーが横方向にずれており、白黒マークをダブルカウントしてしまったのではないかと推定しています。

 ともかくこの部分のデータを無視することにして、データを観察すると、右の拡大グラフのように、数%程度のスリップ率で、駆動側のスリップ領域に近づくに従ってだんだん多くなっていく様子がしっかりと示されています。 制動側は、ゼロ近辺から一気に滑っている様子も初めて観察されました。 納得の行くデータと判断しました。

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 最後に、モータ回転数と車速の関係をグラフに示しておきます。 モータの回転数は殆ど変化していないが、動輪のスリップによって、車速は大きく変化している様子を示しています。 また、センサのダブルカウントの状態も理解できると思います。

 ところで、センサがずれると何故ダブルカウントするの?  乱反射・・・・・・? 良くわかりません!

 

■ 電気機関車 EF64-1032号機の測定

 2台目として、同じくKATO製の電気機関車 EF64-1032号機を選択して、同様の測定を実施した。 測定装置をセットして速度特性を測定した。 そのグラフを下に示す。 グラフを見ての通り、なんだか変である。 何本かの筋が出来ている。 測定中に見ていると、手前のゲートを通過する時と向こう側のゲートを通過する時に、明らかに速度差があるのである。 今までもで多少の誤差は有ったが、これ程はっきりした現象は初めてである。 電流値のデータもその傾向があるので、速度の測定誤差ではなくて、走行抵抗の変化と見るべきであろう。 なぜなのだろか?

 この時の電圧降下量とスリップ率のグラフをその下に示す。 EF510-1号機の場合よりも倍以上もあり、かつバラツキも大きい。 スリップ率もこれまた大きすぎる。 センサの取り付けには気を使ったが何だか変である。

 おかしいなと思いつつ牽引力の測定を実施したが、途中でだんだん変になり、ついにはパルスカウントも止まってしまった。  あっ・・電池が切れた! こんなに早く?

 そこで新品の電池に交換して実験を再開するも、回転数の計測値に疑問があったので、5ボルトを終了した時点で測定を中止した。

 電圧降下量と牽引力の傾向は、EF510-1号機と同様にパターンである。 50%もあるスリップ率は変としても、通常状態で30〜40%もあるのは疑問である。 まず、モータの回転数計測方法を疑った。

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 そこで、動力車を固定した状態で測定してみることにした。 方法は、下の写真に示すように、動力車を線路から外して木片の上に置き、車輪を空転させる。 モータへの電力は、電圧・電流測定ユニットの端子と直接的に接続して、ダイレクトに供給する。 すると電圧降下量は殆どゼロのはずである。

 そして、同じ測定プログラム(スケッチとEXCELの処理プログラム)を同じ様に走らせるために、ダミーの車両を走らせた。 最初はBトレ動力車を使用したが、低い電圧での測定のために、KATOのC57を走らせた。 回転数やモータ端子電圧の測定データは、赤外線と無線で送信させるので、上記での測定状態と全く同じである。 従って電圧降下がゼロの状態での測定結果が得られるはずである。

 この時の測定データの内、有効なデータである電圧降下量のグラフとモータ回転数のグラフを下に示す。 モータ回転数のグラフではEF510-1号機の場合と同様に、「動力車の調査」でのモータ単品状態での測定データを引用した。

 モータ回転数のデータは、単品状態でのデータからやや低くなっているが、ウォームギヤなどの台車の回転摩擦抵抗により、回転数が少し減少していると考えると、ピタリと一致すると考えても良いのではないかと判断している。

        測定方法は合っているのだ!

 当初は、センサの状態をいろいろ変えてみて、最適な条件を探る予定であったが、最初からこのようなデータが得られたので、自信を持ってしまった。 もう少し調査すれば良かったな、とこの編集時に反省している。 とにかく正常に回転数を検出しているのは確かである。

 電圧降下量は、0.1ボルト程度違っているようである。 導線の抵抗を測ってみると、0.1Ω以下であり、100mA程度であれば0.01ボルト以下の電圧降下しか無いので、校正時の誤差と思われる。 電圧は、測定する場所によって少しずつ異なるので厳密性は甘くなるものと認識している。

 

■ 乾電池の早期消耗対策ほか

 今回の測定では、やはり測定方法に不安がある事が分かり、幾つかの課題について改善策を検討することにした。 特に乾電池の早期消耗は重要と判断する。 不安材料として赤外線LEDの出力不足も心配しているので、電流アップも考慮すると、なおさら消費電流の検討が必要となった。 とはいっても、必要な電力を供給しなければならないので、充電式の乾電池で、こまめに充電しながら使用することにした。

 しかし、充電式乾電池を手に取ってみて、手が止まってしまった。 電圧が “ 1.2 V ” と書いてあるではないか!  2個使いでは2.4 ボルトである。

 何とかなるであろうと考えて購入してきたが、各要素での作動電圧をチェックした結果、回路をかなり修正する必要がある事が分かった。 このため、新しくユニットを作ることにしたが、その内容は次回に報告しよう。

 この他に改善策として下記の事を実施することにした。

 1) 回転数計測のための白黒マーク
フライホイールの金属面にペンキ(アクリル絵具)で丁寧に描くこと。
 2) 乱反射の防止
黒色の紙で測定窓を作る。
 3) クリーニング液の使用中止
測定開始前にレールのクリーニングとして、ユニクリーナを使用していたが、実験開始時にスリップ率が大きく出る場合があった。 このため、ユニクリーナを使用しないで、津川洋行製のレールクリーナを使って磨くことにする。
 4) 測定時間が長引くとレールが汚れる
測定の区切りを短くして、途中でのレールクリーニングを実施する。 (効果のほどは?)