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鉄道模型実験室  EF210-109号機の牽引力特性を測る

■ はじめに

  先回報告した「電圧降下の時間推移(2)」では、集電機構が異なるTOMIX製の電気機関車で実験を実施したが、同じ構造のTOMIX製EF210-109号機でも、同様の測定を実施する事にした。

 そのため、まず動力特性を測定したが、この時、余分な操作を実施したために、思ってもみなかった測定結果となってしまった。 今までコツコツと実施してきた測定結果が、全部 “パーになってしまわたのでは!” と心配になって来たほどである。 その状況を報告しよう。

 

 

■ TOMIX製電気機関車EF210-109号機

 今回、実験に用いたのは、TOMIX製で品番が9142のJR EF210 100形電気機関車(シングルアームパンダグラフ搭載車) で、発売日が2013年の比較的新しいモデルである。

 その動力台車の構造をイラスト的に表示したので右の図である。 ED75-710 号機とは、構造的には似ているが台車枠と集電シューが少し変更されている。

 分解調査や速度特性の測定データについては、マイコレクションの「EF210-109」に記載したので、こちらを参照ください。 ここでは、問題となった、牽引力特性の測定から報告する。

 

 

■ 牽引力特性の測定

 いつもと同じような方法で測定を実施したが、車輪やレールのクリーニングに注目していたので、測定途中で、異なったクリーニング方法を実施してみた。 それまでは、チッシュペーパーにクリーニング液を垂らし、動輪を乗せて空回りさせて、車輪のクリーニングを実施していたが、動輪の回転に合わせて、チッシュがめくり上がり、操作にはコツが必要であった。 このクリーニング方法を下の写真に示すように、方法Bとする。 そして、レールのクリーニングは、方法Aと仮に呼ぶ事にする。 クリーニング方法の詳細は、「電圧降下の時間推移」にて説明していますので、こちらを参照ください。

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 この操作の改善のため、チッシュペーパーの代わりに、津川洋行の「ソフト君2型N」を持ち出して、線路を模したフェルトの上にクリーニング液を垂らし、車体を乗せてコントローラから車体に通電させて、動輪を回転させることによって、車輪のクリーニングを実施したのである。 通電はテスター用の棒を使用している。 これらの道具を左の写真に示すがこの方法を方法Cと呼ぶ事にする。

 そして、レールのクリーニングも付属のレールクリーナ(写真の手前の四角な部材)を用いて実施する。

 この操作は容易に実施出来、車輪はピカピカの状態になったので、実験を続行した。

 しかし、それまで登坂限界であった傾斜角になっても、スイスイと問題なく登坂して行くのである。 傾斜台のハンドル操作を限界までアップさせても、登坂可能であったので、これ以上の負荷を与える事が出来なった。

 この一連の測定結果のグラフを下に示す。 実験の順序は、電圧パラメータが、5.0 volt、4.0 volt、6.0 volt の順番で実施し、6.0 volt 実施前に方法Cで車輪とレールをクリーニングしたのである。 他のパラメータでの測定前は、それぞれ方法AとBで、レールと車輪をクリーニングしている。 

 スリップ率や摩擦係数のグラフを見ると、6.0 volt の場合の違いがはっきりするであろう。 同じ負荷に対して、スリップ率が小さいのであり、これは車輪がしっかりとレールに喰い付き、牽引力を充分に発揮しているものと思われる。

 この違いに驚き、同じ様なクリーニング方法を実施して、もう一度、他のパラメータの状態も測定て比較する事にした。 また、発揮される牽引力に対応するため、車体重さが 65.3グラム(走行抵抗 0.3 グラム)の負荷車両を追加牽引させ、牽引力が40グラム程度まで測定出来る状態にして実施した結果を下に示す。

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 ただし、今回もまた余分な操作を入れてしまったのである。

 それは、方法 C のクリーニングを実施して5.0 volt 状態で測定後、今度は台車を車体から取り外し、集電シューの接触部の汚れを取り去る目的でクリーナ液を垂らしたのである。 この台車を右上の写真の様に、ソフト君2型Nの上で何回か転がして汚れを取って、再び車体に組み込み、4.0 voltと6.0 volt の順番で連続して測定した。 レールはソフト君のレールクリーナがクリーニングした。

 今回の結果にも、またまた驚いてしまった。 粘着領域での牽引力のアップは、確認されたが、さらに、4.0 voltと6.0 volt では速度までもがアップしたのである。 色々なクリーニング方法を無造作に試してみたので、混乱したデータとなってしまったが、これほど変化するとは思いもしなかった。 そこで、電圧パラメータを同じにして、クリーニング方法の違いだけに注目して考察出来るように、次に示すようにグラフを整理した。

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◆ 電圧パラメータ5ボルト時の比較

@とAの状態の違い

  @ 方法Aと方法Bでレールと車輪をクリーニング

  A 方法Cでレールと車輪をクリーニング

 

 粘着領域での牽引力は約10 グラム程度も上昇しているが、スリップ率が小さくなっているためと思われる。

 これは、クリーニング方法C の効果と言うべきか?

線路や車輪に付着した汚れを完全にそぎ取って、表面をピカピカにしたために、シッカリとした粘着力が発揮できたと見るのは、少し、考え過ぎだろうか。

 

 

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◆ 電圧パラメータ4ボルト時の比較

@とAの状態の違い

  @ 方法Aと方法Bでレールと車輪をクリーニング

  A 方法Cでレールと車輪をクリーニング、および
     集電シューのクリーニング

 

 粘着領域での牽引力は約5グラム程度しか上昇していないように見えるが、速度は30Km/h 近くもアップし、電流は約40mAも低下している。 そして、電圧降下量も0.1〜0.2ボルト程度改善され、スリップ率も小さくなっている。

 これは、上記の5ボルトの場合と比較して、クリーニング方法C の効果の上に、集電シューのクリーニングの効果が加味されているとしても、違いすぎるような気がする。

 電圧降下量が小さくなるとその分、速度は上昇するが、電流値は変化しないはずである。 この電流値が下がった事は、摩擦抵抗が小さくなった事を意味する。 するとどこの摩擦抵抗だろうか?  集電シューの摩擦が小さくなっただけなのだろうかの疑問があり、クリーニング液が、歯車や軸受部に浸み込んで摩擦を減らしたようにも思われる。このクリーニング液は、蒸発してしまうので、それが残っていたのか、あるいは液に含まれていた何らかの成分が寄与しているのだろうか。

 

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◆ 電圧パラメータ6ボルト時の比較

@とAの状態の違い

  @ 方法Cでレールと車輪をクリーニング

  A 方法Cでレールと車輪をクリーニング、および
     集電シューのクリーニング

 

 この場合の違いは、 集電シューのクリーニングの有無であるが、4ボルトの場合から少し時間が経過しているので、電圧降下量が元に戻ったことからも、クリーニング液が蒸発してしまったと考えるのが妥当な気がする。

 それにしても、電圧降下量のパターンが波打っているのも不思議な現象である。 単に性能や測定方法のバラツキとは思えない。

 しかし、電流値や速度の変化は顕著なので、歯車や軸受部に入り込んだクリーニング液の影響により、低摩擦状態が続いているような気がする。

 なお、LOCOオイルの場合の様に、スリップ率全体の値が変化していないので、レールや車輪踏面へのクリーニング液の侵入は無かったと判断しても良いであろう。

 それにしても屁理屈が付けにくい現象となってしまったので、ただただ混乱している状態である。 ひとつだけはっきりしていることは、クリーニングの違いでこれだけデータが変わってしまうと言う事は事実である。

 

■ まとめ

 本来の実験目的であった、TOMIX製の電気機関車における電圧降下の時間推移を観察を始める前に、思わぬ泥沼にはまってしまったようである。 気楽に考えていたレールや台車のメンテナンスに於いて、これほど性能を左右するもとは思ってもいなかった。 まだ、現象を整理出来ていないので、思い付いた結論を羅列してみよう。

 今回経験した汚れによるデータの影響を考えると、いままで、得意げに報告して来た我がデータも、その信頼性がもろくも崩れ去ったような気がする。 今回報告しているグラフのサイズが、少し小さくなっている事に気付いていますか? 今後はさらに小さく、かつデータ点も減らして行くかも知れません。

 以前も述べたように 「鉄道模型は精密機器では無い。 」 との思いを今回も感じてしまった。 確かに細かく緻密に出来ていますが、その性能は不安定であり、いちいち性能データを測定して比較するような物では無いと言うことを念頭に置いておく必要があるようです。

 走らせて楽しみ、棚に飾って鑑賞するするのが、ホビーとしての鉄道模型の本来のねらいである事を忘れないことにしよう。

 次は、この車両を使っての電圧降下の時間推移実験の結果を報告することにしよう。