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鉄道模型工学  電圧降下量について考察する

■ いきさつ

 以前実施していた「動力車の調査」の中で、走行中の動力車のモータ端子電圧か、あるいはモータ回転数のどちらかでも計測出来れば、解析の精度が向上するのだがと考えていた。 その解決方法として、無線通信のXBeeと赤外線通信を使用した測定方法の工夫に取り組み、なんとか測定出来るようになった。 そこで、新たに測定可能となったモータ端子電圧をもとに計算される電圧降下量について考察してみることにしよう。

 この動力車における電圧降下は、動力車の速度低下やギクシャクとした動き、さらに前照灯のちらつきなどで経験されている現象であるが、レールや車輪の汚れなど以外の要因があるのではないかと疑っている。 そこで、この電圧降下量の実体を探ってみよう。

 

■ 電圧降下量とは?

 

 最初に、電圧降下量について、復習しよう。 「車両の静的特性のモデル化と特性解析 その1」にて説明していますが、ここに再掲載いたします。

 集電回路はレールから集電された電力を不安定な接触部を介してモータまで通電する間に、電圧降下が発生します。 これも、オームの法則を参考にして、集電回路の電圧降下は、供給される電流 Is に関係するとして、
         集電回路電圧降下量 = R5・ Is + R6
とすることにします。 ここでR5 は比例定数、R6 は固定値としています。 そして、この電圧降下によってモータの端子電圧E は、供給電圧を Es とすると、
         E = Es - (R5・ Is + R6)
となります。 ここで、電流は、右の線路 → プラス側集電回路 → モータと照明回路 → マイナス側集電回路 → 左の線路 と流れて電源に戻ってきます。  即ち、電圧降下はプラス側とマイナス側で同時に発生しますが、ここではその合計した値を示すものとします。

 モデル化においては、上記のようなモデルで計算していますが、集電回路の電圧降下量は、供給電圧とモータ端子電圧の差で定義しています。 そして、その降下量は電流値と何らかの関係があるだろうとして、線形関係を定義していました。

 今回の新しい測定によって、はたして電流値と線形関係があるのか? あるいは他の要因と関係するのか、見ていきたいと思います。

 

動力車形式 車両番号 メーカ 品番
EF510
EF510-1
KATO 3051-1
EF64
KATO 3023-1
EF81
KATO 3021-1
EF65
KATO 3061-1
EF57
KATO 3069
ED75
KATO 3028
EF65
KATO 3035-1

■ 電圧降下量の概要

 装置の改善と共に測定してモデルを右の表に示す。 測定方法の信頼性はいまいちと考えていると共に、測定数も少ないので、スリップ率の様にはっきりした事は何も言えません。 そこで現在までの測定結果を紹介して、この不安定な電圧降下について興味を持っていただければ幸いです。

 測定データの詳細については、マイコレクションの各車両毎のページに記載しているので参照ください。 なお、 EF510-1号機は、「動力車の測定を始める」にて最初に測定を始めたが、そのデータには多くの疑問があったので、再測定を必要としています。

 ここでは、これらのデータから電圧降下量に関するグラフを抜き出して掲載してみよう。 最初にそのEF510-1号機の速度特性を測定した時の電圧降下量のグラフを下に示す。

 

 電圧降下量は電流と線形関係にあるとの仮説をもとにデータを整理したが、その傾向を見る事が出来た。 また、供給電圧との関係も線形関係があるように見えるが、電流は電圧と線形関係にあるためと思われる。 次に牽引力特性を測定してみた。 まず、電流値との関係から見ていこう。 下左のグラフ。

 この測定により、電圧降下量は電流と線形関係にあるとの仮説は、見事に崩れてしまった。 電圧降下量はこんなにも変化するのかと驚いてしまったのである。 でも、プロット点が馬蹄形をしているので、牽引力と電流の関係グラフから想定して、牽引力も関係しているのではないかと疑ったのが右のグラフである。

 すると、牽引力がプラス側あるいはマイナス側共に大きくなると電圧降下量は下がって来る様子がはっきりと示されています。

      これは新発見です!    力が掛ると電圧降下量は小さくなる。

 なぜ? まだ分かりません。 さらに電圧が高いと電流値は同じでも電圧降下量は大きくなることも不思議ですね? 新たな課題が出てきました。 なお実験の順番は、4、5、6ボルトの順に実施していますので、レールなどがだんだん汚れてきたのかもしれません。 今後確認してみましょう。

 ほかの車両について、牽引力特性での電圧降下量のグラフを見てみましょう。

 グラフの表示方法が統一されていませんが、傾向は良くわかると思います。 また、電圧測定値のバラツキが気になっていたので、ED75-1001号機では、室内灯工作の時に使用していた 10μF のコンデンサをモータ端子部に貼りつけて測定してみた。 少しは効果があるように見えるが、定かでは無い。

 電圧降下量と電流値の関係は、やはり団子形か馬蹄形になっており、電圧降下量は電流と線形関係にあるとの仮説は放棄せざるを得ないようですね。 また、電圧降下量と牽引力の関係では、綺麗な傘形パターンを示すものもあれば、フラットなパターンのモデルもあり、なぜ、このようなパターンになるのか、未だにその要因が思いつかにである。

 レールと車輪の間の電圧降下が表れているとするならば、スリップしている状態の方が電圧降下量は少ないのである・・・・・・・と言う事が出来るかもしれない(?)し、車軸とピボット軸受部での電圧降下であれば、上からの荷重の他に横からの荷重によって、軸と軸受の当たりが強くなって電圧降下量が小さくなる・・・・・・・・と言えるかもしれないが(?)。 これらも推定の域を出ないのである。 それにしてもフラットなパターンと傘形のパターンの違いを説明出来ないのである・・・・・・・・・・。

 

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■ 電圧降下が牽引力特性に与える影響

 EF65-1103号機の牽引力特性を測定している時に、特性のバラツキに疑問を感じた。 牽引力が小さい領域で特性が不安定に何故なるのだろうかと。 もしかして電圧降下によってモータの端子電圧が低下したためでは・・・・・? と疑ったのである。

 特性の詳細はマイコレクションの車両のページを参照して頂くとして、いつもの特性線図では判然としないので、表示方法を工夫してみた。 牽引力と車速のグラフ上に電圧降下量を表示できないか検討した結果、3次元表示グラフを活用する事にした。

 電圧降下量を Z 軸に設定して表示させたが、いまいち見栄えがしないのである。 そこで表示は2次元ながら、Z 軸をグラデーションで表示させるパターンがあったので、この表現を使ってみた。

 それが右の図である。 牽引力特性図の中のプロット点を電圧降下量の大小に応じて色別にして表示しているのである。 すると、牽引力の小さい領域では電圧降下量が大きくなっている様子を表しているが、さらに降下量が大きくなると通常のパターンからより大きく外れている事が分かる。

 このことより、牽引力特性のバラツク大きな要因は、集電回路の電圧降下量の変動では無いかと推察するのである。 考えれば当然であるが、その影響度が意外と大きい事を認識出来たのである。

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■ 時間経過と電圧降下の推移

 このようなわけで、ある条件下で動力車を走らせて電圧降下量の変化を見ることにした。

  測定日: 2014年12月17日
  測定車の測定ユニット:モデル3
  スケッチ: New_Keninryoku_test5

 

 走行条件は、少し負荷を掛けた状態にして周回路を走行させ、登り坂と下り坂の測定ゲートを通過するたびに測定を実施した。 測定サイクルは 30 回、即ち15週毎に区切りながらもそれを連続して4回実施して一区切りとした。 即ち60周回したことになり、およそ15分間連続して走らせていることになる。

 右のグラフは、各グラフを貼り合わせて時間経過が一目でわかるようにした。

 最初の60周回(およそ15分間)では、電圧降下には変化が認められなかったので、次に無負荷の状態で走らせた。 無負荷と言っても測定車を引っ張っているので1.2グラムの負荷が掛っている。

 すると、電圧降下量は跳ね上がってしまった。 バラツキも大きくなっている。 さらに、車速や電流値、モータ回転数までも時間と共に減少して行くのである。

 何が起きているのか良くわから無いままに、60周回を過ぎると、今度は再び負荷を掛けてみた。

 すると、電圧降下量は小さくなってしまった。 ただし、電圧降下量のバラツキは大きくなっている。

 この小さくなる事は、上記のEF510-1号機でみた傘形のパターンと矛盾しない現象であるが、EF57-8号機は明確な傘形パターンではないのである。

 期待していた時間と共に電圧降下量が増加する現象は、はっきりと確認出来なかった。 測定方法をまだ工夫する必要がありそうである。

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 測定後、データを整理していても、頭の中は混乱しており、泥沼状態にはまっているが、確認出来た事は、牽引力状態によって電圧降下量は変化している と言うことである。

 鉄道模型を走らせてみると、レールや車輪の汚れやによって走行困難になる事は、誰でもが経験することであるが、この現象は集電回路の電圧降下が大きくなったために発生している事は間違いないと思う。 しかし、その電圧降下はどこで発生しているのであろうか? 大きな要因は、レールや車輪の汚れであることも確かであるが、さらに他の場所でも発生しているのは確かと思います。 それが、どの場所でどれくらいなのかは、まだ判然としないのである。